なぜあなたは、あなたの中にあるアヤメに気がつかないのか?(「アヤメ」ヘルマン・ヘッセより)

ちょうどアヤメの季節である。最近、アヤメを活けたのがきっかけとなったのか、ふとしたことで、ある方から、ヘルマン・ヘッセのアヤメを勧められていたのを思い出した。

Amazonで注文した後に、仕事机の横に置くままとなっていた短編集「メルヒェン」を手に取り、巻末に収納されている「アヤメ」を読み進める。

「私はただの一日でも、心の中の音楽をかんじんなこととせずには、生きることができません。」

アイリス(女性)が述べたこの一言に、おもわず、ピンク色の蛍光ペンをとりにいって、線をひいてしまった。これこそ、私がいいたいことだったから。

主人公のアンゼルムは、少年のころに、アイリス(アヤメ)の咲くのを心から楽しんでいたが、いつからかそんなことは忘れ、名誉や富、あるいは知識をもとめて、学者となる。一見、成功者とみえる彼だが、どうにも物足りなさが解消されることがない。そこで、慎ましく暮らす、ある地味な女性に、上から目線で、求婚したのである。

そこで、この誇り高き女性「アイリス」からいわれたのが、この一言である。

「でも、ねえ、アンゼルムさん、私は、自分を妻となさる人に対して大きな注文をしますの。大多数の婦人がするより大きな注文をします。あなたは私に花をくださると、おっしゃいました。ご親切からですわね。でも、私は、花がなくても、音楽がなくても、生きてゆけます。仕方なければ、そういうすべてのものや、多くのほかのものがなくてもやってゆけます。しかし、一つのものだけはどうしても欠かすことができません、欠かしたくありません。私はただの一日でも…」

この後このアイリスという女性は、結婚の条件として、アンゼルムに、次のような課題をだす。

「私の名前(アイリス)を聞いて思い出させられるものを、記憶の中に見出してごらんなさい。あなたがそれを再び見出した日に、私はあなたの妻として、どこへでもあなたのお望みのところへいっしょに参ります。」

これは、あなたはなにも分かっていない、そんなひとのままでは一緒になりたくない、という明確な意思表示であったように思う。

高校生の頃に、「車輪の下」を読んで、全然ピンとこなかったヘッセ。そのヘッセがいま、まさに自分と同じことを伝えようとしていたのだと思うと、自らの信念がより強固になるのを感じる。こうして先人を尋ね、対話するというのは、なんとも尊いことだと思う。

求めない世界にこそ真実がある。それはあなたの童心の記憶の中にひっそりと佇んでいるはずだ。

 

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